大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所 平成3年(む)B63号 決定

主文

本件主位的申立は棄却する。

原裁判中、勾留場所を蕨警察署と指定した部分は取り消す。

被疑者に対する勾留場所を浦和少年鑑別所とする。

理由

一、申立の趣旨及び理由

本件準抗告の申立の趣旨及び理由は、右弁護人作成の「準抗告申立書」と題する書面記載のとおりであるから、これを引用する。

二、当裁判所の判断

別紙のとおり。

三、よって、本件主位的申立は理由がないから、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項を、本件予備的申立は理由があるから、同法四三二条、四二六条二項をそれぞれ適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官倉澤千巌 裁判官須藤繁 裁判官園原敏彦)

別紙準抗告申立書〈省略〉

別紙

第一 主位的申立について

一 罪証隠滅のおそれについて

本件は、深夜、被疑者が実弟と共謀のうえ、埼玉県立南稜高校野球部用具室に侵入し、野球バット二本を窃取したところを張り込み中の警察官に発見され、逮捕を免れる目的で右野球バットで同警察官の頭部、下肢等を数回殴打する暴行を加え、よって同人に対し全治二週間を要する前額部・後額部裂傷、左下肢打撲症等の傷害を負わせたという事案であるところ、被疑者は、野球バットで被害者を殴打した点は認めているものの、実弟との共謀の点及び窃取の点はこれを否認している状況にある。一件記録によれば、右被疑者の供述は実弟の供述と概ね一致しているが、その内容は被害者の供述する犯行直前の両名の行動、犯行状況等と食い違い、客観的状況とも相違する不自然、不合理なところが認められるのであって、実弟が既に釈放されていることからすると、今後被疑者が実弟と通じて口裏を合わせるおそれなしとせず、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるというべきである。

二 逃亡のおそれについて

被疑者が専門学校卒業後定職に就かず、印刷会社等でアルバイトをする状況であること、父母が別居中で母と弟との三人暮らしであること等、被疑者の生活状況、家庭環境を考慮すれば、被疑者が逃亡すると疑うに足りる相当な理由もあるというべきである。

三 少年法四八条一項所定の「やむを得ない」事由の有無について

被疑者の年齢が一九歳であること、本件は強盗致傷という重大な事案であること、被疑者が否認しており、今後十分な捜査を尽くす必要があると考えられることなどからして、本件には少年法四八条一項所定の「やむを得ない」事由があるというべきである。

よって、主位的申立は理由がない。

第二 予備的申立について

原決定は、勾留場所を代用監獄である蕨警察署留置場としているが、被疑者が少年であること、本件の被害者が警察官であること、被疑者が否認していることなどからすれば、その捜査には十分な慎重さが求められる。したがって、勾留場所を代用監獄である蕨警察署留置場とした原決定はその限りで相当とは認められない(なお、被疑者は既に七日間蕨警察署留置場に勾留されているけれどもこれは勾留決定後五日目に弁護人が選任されたため、本件準抗告の申立が遅れた経緯によるものであり、現時点においても勾留場所を変更すべき必要性が認められるので、主文のとおり決定した次第である。)。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例